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2008年9月15日 (月)

07年8月号 外国籍住民への行政サービスについて

外国籍住民への行政サービスについて

 私は現在、草津市、栗東市、守山市でポルトガル語による行政相談を行っています。行政相談と言っても、主たる仕事はポルトガル語の通訳や翻訳なので、私自身は専門相談員ではありません。しかし私に限らず、このような行政相談を行う人たちには、何をすべきか、自ら考えて行動しなければならないことが多くあります。

 例えば、「生活が苦しいので税金を減額してもらうことはできませんか?」という相談があったとします。単に通訳だと割り切って税務課で言葉通りに伝えると、「税金は前年度の所得に基づいて課税されるので、減額することはできません」という回答になります。けれども、税務課へ向かう前に「役に立てないかもしれませんが、どうして経済的に困っているのか話していただけませんか?」と話を切り出してみると、相談者の生活の様子が分かり、その人のニーズに即した対応ができることもあります。

 例えば、「最近会社から解雇されてしまった。妻は働いているが、小学生の子どもと就学前の子どもを養わないといけないし、本国の家族への仕送りや、高い家賃も払わないといけないので税金を払うだけの余裕がない」という話を聞いたとしましょう。

 まず、住民税の減額は原則的にできないのですが、住民税が何に基づいて決まるかと言えば、前年度の所得(国民健康保険税の場合は「給与所得控除後の給与の額」)です。そのため、相談者が年末調整や確定申告の際に正しい申告をしたかどうかを確認することが必要となります。外国籍の人たちの場合、税金のシステムについての知識も乏しいため、扶養や社会保険料(国民健康保険税など)などの申告漏れが多いのです。本国へ仕送りをしているという話から、本国で暮らしている家族が被扶養者となっているかを確認する必要があります。また、仕送り先の同居家族しか被扶養者に入れることができないと考えている人もいますが、仕送りの受取人が別居している親戚などの生計を支えているような場合(例えば、本国の父に仕送りし、父が別居している収入のない叔父・叔母のために送金をしている場合)、叔父・叔母も被扶養者として申告することが可能です。確定(修正)申告のためには、必要な書類を本国から取り寄せたり若干の手間はかかりますが、被扶養者を正しく申告することで、月々の給与から控除される所得税が減額となったり、所得税の還付を(五年前までさかのぼって)受けられたり、住民税や保育料が減額となったり、家計を助ける上でのメリットは非常に大きいと言えます。

 子育ての費用に関しては、児童手当の申請ができているかどうか確認する必要があります。と言うのも、児童手当の受給年齢が小学六年生の三月まで延期されていることを知らない人もいるためです。こういった情報は広報に掲載されたり、郵送で通知されたりするのですが、日本語で書かれた文書では何が書かれているか分からず、未申請のままとなっていることもあるのです。さらに、低所得世帯(住民税非課税世帯など)に限定はされますが、就学援助費を受けることもできます。

 失業時の税金の減額ということは余程のことがないと難しいですが、再就職するまでの間の税金の支払いを猶予や、月々の支払額を減額して支払いを順送りにするという方法はあります。というのも、現在失業しているのであればその年の収入が減り、次年度に税額が減額されるという見通しも持てるからです。また、再就職先については、ハローワークで外国人向けの相談(通訳)日を設けているので、参考までに連絡先を渡した方が良いかもしれません。

 また、家賃の負担が重たいということであれば、県営住宅と市(町)営の住宅についても情報提供する必要がありそうです。現状は狭き門となっていますが、家庭の状況と運(?)次第では入居できる可能性もないとは言えないからです。

 その他、一時的な借り入れについては少額ですが、社会福祉協議会などで(無利子での)小口貸付制度などもありますし、歳末助け合い募金による年末一時金などが受け取れる場合もあります。

 そのように、行政通訳といえども施策などについての様々な知識が要求されるのですが、一人の相談員だけでこれらの相談の応対をしている場合、その相談員が交代した途端に相談機能が低下してしまう恐れがあります。また、相談員に知恵を貸してくれる担当職員が仮にいたとしても、人事異動で担当職員が次々と変わってしまい、相談窓口としてのノウハウが蓄積されないという問題があるのです。

 それを解決するためには、役場内に総合相談窓口を創設することが必要だと私自身は思っています。大きな病院の中には、何科を受診したらいいか分からない人のために総合的な診療を初めに行い、そこでの診療をもとに必要な診療科へ案内するという流れを作っておられるところもありますが、役場内においても総合相談から個別窓口の相談へという流れを備えておくべきだと感じています。この仕事を始めるまで私自身もよく知らなかったのですが、役場内には実は数多くの専門相談員が関わっています。嘱託としてどこかの部署に配属されている場合もありますし、社会福祉協議会など半公半民のような団体が専門職の人(弁護士や税理士など)を招いて相談日を設けているような場合もあります。

 けれども、外国籍の人に限らず、日本人でも自分の求める部署や相談機関へなかなかたどりつけないことがあるのです。役場は住民へのサービスを提供する最大機関の一つです。だとすれば、相談者の視点に立った組織作りは急務ではないでしょうか。

 

問題解決を図ろうとする姿勢

 市役所へ相談に来るということは時としてとても勇気のいることだと思います。簡単に解決できることであれば、平日わざわざ市役所へ足を運ぶことはないでしょう。けれども、同じ相談を受けながら、いつまでも問題が未解決のままになっているということもよくあります。

 例えば早朝保育について考えてみましょう。

 「七時一五分から保育園で子どもを見ていただくことはできませんか?」

 南米の方たちのほとんどは工場で働いているのですが、工場の就業時間は早く、日勤の場合、通常午前八時までにはそれぞれの持ち場についていなければなりません。職場で服を着替える必要があったり、外国籍の人たちの多く(特に女性)は自家用車を持っていないので移動手段は自転車や送迎バスなどになったりしてしまいます。自宅や職場の近くに保育園があるとも限りません。逆算すれば、七時一五分頃でないと仕事に間に合わないということになるのですが、この一五分がどうにもならないことが多いのです。

「七時半からしか受け入れができないことになっています。」

「では、どうしたらいいのですか?」

「でも、他の皆さんでも七時半からということになっていますから。」

 そんなやりとりが毎年毎年繰り返されます。就労する両親を支援するのが保育園の役割であるにもかかわらず、この一五分のために就労を断念せざるをえないことも起こるのです。近年、夕方から夜にかけての保育時間は延長されてきているようですが、両親ともに工場労働者という日本人家庭は少ないのか、早朝保育だけは時間の繰り上げがなかなかすすまないようです。同じ質問を受けて、いつまでも「それはできません」と繰り返し言い続ける私たちもつらい気持ちになります。

 また、実態よりも書面優先ということも実務レベルではよく起こっています。

 例えば、「夫と別居しているし、離婚もしたいのだけれど、離婚する費用もないし、子どもが小さいのであまり働くこともできない」というような相談の場合です。

 役場の中では母子家庭に対する支援はかなり手厚くなっています(児童扶養手当、医療費扶助、公営住宅への優先入居など)。ところが、生活の困窮状況が分かる場合であっても、書面上では離婚していないために、いずれの制度も利用できないということが起こっています。日本人同士であれば役場へ離婚届を提出するだけで離婚が成立しますが、ブラジルなど原則的に離婚を認めていない国では、弁護士を介してしか離婚手続きは行えないようになっています。日本で離婚手続きを行おうとすれば、多額の費用をブラジル人弁護士へ支払わなくてはならず、手付けだけでも三十万円以上は必要と言われています。そもそも多額の離婚費用の支払いに快く応じてくれるような夫であれば、離婚することもないかもしれません。

 役場の窓口の人は「正式に離婚しないと母子家庭にはならないので、母子の福祉制度を利用することはできません」と言います。けれども、残された妻や子どもへの救済措置がないというのはあまりにも不条理です。いつまでも同じ相談を受け、いつまでも同じ回答を繰り返すよりも、相談者のニーズに応えられるように、制度を見直すことはできないものだろうか、と考えてしまいます。

多様化する住民ニーズへの対応

 

 「子どもが高熱を出していて病院へ連れて行きたい。通訳をお願いできませんか?」

 我が家にはこんな電話が時々かかってきます。役場の相談窓口では、医療に関する相談はほとんどありません。けれども、それはニーズが少ないということを表しているわけではありません。外国籍の人たちにとって、病院は間違いなくコミュニケーションが最も難しい場所の一つです。日本人ですらお医者さんが言っていることが分かりにくいぐらいですから、外国籍の人たちにとってはなおさらです。

 ところが、滋賀県在住の外国籍者の半数は南米の人であるにもかかわらず、その主要言語であるポルトガル語やスペイン語での医療現場の応対は一向にすすんでいません。誰でも、いつでも、どこでも安心できる医療システムの確立が目指されているにもかかわらず、病院での通訳配置、医療電話相談、医療通訳の派遣制度、救急時の外国語マニュアル、薬剤についての翻訳など、他府県で取り組まれている事業のいずれも滋賀県では行われていません。医療は時として命にも関わる大きな問題で、何らかの行政施策がなければ課題解決は難しいことです。にもかかわらず、ほとんどの役場にはそれに対応する部署すらありません。

行政相談を行っていると、そういった問題も時として持ち込まれます。「それは、こちらの相談業務で扱っている内容ではありません」と言うことは簡単です。けれども、相談者からすれば「では、どこに相談すればいいのでしょうか?」ということになってしまいます。

 幅広い住民ニーズに耳を傾け、必要な情報を収集・提供したり、課題解決に向けた新たな措置を図ったりする行政サービスを期待したいものです。

終わりに

  相談事業を通じて思っていること、感じていることなどを述べてきましたが、組織を作るのが人である以上、最終的には私自身も含めて、そこで働く一人ひとりの姿勢が問われているのだと思っています。

 「できません」「分かりません」と言うことは簡単です。けれども、身勝手な相談でもない限り、相談者の人と一緒になって課題解決の方法を探ろうという気持ちだけは持ち続けたいものです。

外国籍の人たちへの行政サービスを考える際には、日本人と同様のサービス提供を行えているか、日本人と同様にサービスへアクセスできるよう配慮がなされているか、という二つのポイントが重要となります。けれでも、難しいことを学ぶまでもなく、大切なことはひと言で表すことができます。

それは「思いやり」です。

自分が同じような立場だったらどう思うだろうか、どう感じるだろうか、想像力を働かすことで一人ひとりがすべき行動は見えてくるのではないでしょうか。

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