« 07年10月号 不就学をなくすために | トップページ | ブラジルを知るための日本語サイト »

2008年9月15日 (月)

05年2月号 時間三〇〇円で働く外国籍労働者

時間三〇〇円で働く外国籍労働者

「内職を探している人がいるのだけれど……」知り合いの人から、ある中国人が仕事を探しているという話を聞きました。職場で毎日フルタイムで働いているそうですが、収入が少なく、少しでもお金をつくりたいというのです。

「内職をして毎日数時間働いても一ヶ月で一万円ぐらいの収入にしかならないし、普段の仕事を持っているのなら体を壊すよ」と答えたところ、その人は研修生として働きに来ているということで、正社員同様に働いても一ヶ月の収入はわずか八万円、さらに、そのうち三万円は会社によって強制的に貯金させられているというのです。週あたり四〇時間働いても受け取りはたったの五万円。これでは一時間の労働の対価は三〇〇円にも届きません。しかし驚いたことに、これは違法ではないのです。

研修生として来日する彼らには「研修」という在留資格(ビザ)が与えられ、一年間という期限付き(更新なし)で企業内研修を行うことが許されています。研修といっても他の労働者とさほど変わりない仕事を行うことが多いのですが、その名が語るように就業を目的としたものではないため、最低賃金法の適用対象外となっているのです。

外国人研修制度は外国人技能実習制度とならび、国際協力や国際貢献の一翼を担う国の制度として一九九三年から実施されています。この制度を推進、指導しているのは国際研修協力機構(http://www.jitco.or.jp/)という外郭団体ですが、そこでの制度説明によりますと一年以内と定められた研修期間中、研修生の受入れ機関は「生活実費としての研修手当」を支払うこととなっています。けれどもその金額について明確な規定がないため、結果的に受入れ企業が給与と比べて相当低い手当額しか払わない傾向が強いのです。

制度の本来の目的は「諸外国の青壮年労働者を日本に受け入れ、1年以内の期間に、我が国の産業・職業上の技術・技能・知識の修得を支援すること」にあるのですが、安価な労働力を確保する目的で同制度を利用する企業が多いこともあり、研修生の数はここ数年で急増しています。

法務省が発表している外国人登録者統計(http://www.moj. go.jp/PRESS/040611-1/ 040611-1.html)によりますと、「研修」の在留資格を持った外国人登録者数は平成一一年末に二六、六三〇人だったのが平成一五年末には四四、四六四人と、ここ四年だけでも約一・七倍に膨れ上がっています(研修生の内訳は約九八%がアジア人で、その約七割が中国人)。

「派遣会社が南米人を解雇して中国人などにシフトしてきている」という話を私は何年も前から聞いていました。実際、私の友人が「自分の住んでいる(愛知県の)県営住宅では、今はブラジル人よりも中国人の数の方が多くなっている」と言っていたとおり、その場へ出かけてみて中国人の多さにびっくりしたこともあります。また、派遣会社の人が「ブラジル人では儲からないから、これからは中国人だ」と言っているのを聞いたこともありました。

企業がより安い人件費に価値を置けば置くほど、そこでの倫理観の低下も見られるようになってきています。

今年一〇月一九日付の毎日新聞は、国の研修・技能実習制度に基づき、外国人研修生が企業で働くための受け入れ責任を担う事業協同組合「栃木情報センター」が、公式ホームページ(http://www.toic.net/)上で「安価な労働力」を強調して企業に活用を呼びかけていた、と報じました。同組合のホームページでは「安価な労働力コスト、安定した若手労働力と身分保障された人材確保が可能」「月々一二万円からという低コスト」「国家間の賃金格差の分、比較的低コストの労働力を確保することができます」などと掲載されていたといいます。

ほとんどの企業では支出に占める人件費の割合が高く、経費削減の一環として人件費を見直さざるをえない状況になることもあるかもしれません。しかしながら実際に職務にあたるのは生身の人間です。安ければ安いほど良いという価値観は、人権を無視することにもつながりかねません。たとえ外国籍労働者であろうとも、最低限の生活保障を考えることは企業責任でもあるといえますが、その責任を果たさない事業所は後を絶ちません。

二〇〇三年五月二六日付けの毎日新聞は次のように報じました。

「造船大手の川崎造船(神戸市)の関連会社など二社が、国の外国人研修・技能実習制度で受け入れ、香川県坂出市の工場などで働くフィリピン人実習生に対し、雇用契約書で示した給与の半額以下しか支払っていなかったことが二五日、分かった。両者合わせたこれまでの未払い額は、少なくとも総額二億円程度とみられる。」

フィリピン都市部での平均月収は約一万円。実習生だったフィリピン人男性は、「家族を養わないといけない。娘も学校に通わさないといけないし、彼女の病気を治すお金が必要だった」として来日を決意したといいます。「日本は世界でも有名な工業国で、日本人も平和的で友好的。仕事も頑張ろうと思った」。ところが、その想いは日本への失望へと変わります。

「研修の一年が終わり、実習生になる二年目に入る前に、男性ら実習生は一堂に集められ、ある書類にサインさせられた。会社の担当者は『(書類を)読んではいけない。質問してはいけない。こちらから説明はしない』と話し、サインを要求。書類はすべて日本語。彼らはサインをするしかなかった。その書類は基本給を十五万円とする雇用契約書だった。しかし彼らの給与明細に実際に記載されている数字は時給三〇〇円、残業手当時給五五〇円、深夜手当六〇〇円。明らかに契約書とは違う賃金体系で、時給額は香川県の最低賃金時給(約七六〇円)の半分以下だった。」

最低賃金を遵守しない行為や、逃亡を防止する目的で給与の一部を会社が強制的に貯金させるといった行為が常態化しているという指摘すらあるにも関わらず、現在の制度が抜本的に改善されないのはなぜでしょうか。

坂出市の事件に関連し、六月一三日付の記事は次のように報じています。

「同制度は発展途上国の経済発展を担う『人づくり』に協力するという目的の下、九三年から本格的に運用された。しかし、関係者によると、中小企業団体などから『安い外国人労働力で人手不足を解消させたい』との強い要請があったという。バブル期から日本の三K職場では若者離れが進み、その穴を埋めていたのは不法就労者。『不法就労者は排除したいが、代わりをどうすべきか』。国が頭を痛めながら、企業とともに編み出した“妥協の産物”だったという。……中略……

こうした不正の背景には、同制度の不備がある。まず研修・実習生の待遇の問題だ・来日1年目は研修生として扱われ、『非労働者扱い』。実習生となる二年目からは、雇用契約を結んだ『労働者』扱いとなり、労働基準法などで一応守られる。しかし研修生には給与の規定はなく、企業側が判断した生活実費が支払われるだけ。不当に安い手当が支給されても罰則もない。

また企業側の違法行為が発覚した場合、通常は、入国管理局が「受け入れ不適切」と判断すると、非のない彼らは帰国させられることとなる。

坂出市のケースでは森山真弓法相が一一日に実習継続を検討する旨の異例の国会答弁をしたが、その前の六日には、高松入国管理局の帰国指導が出されていた。実習生らが安易に内部告発できないのも、『表面化すれば結局、帰国しなければならない』という恐怖感が根強いためだ。彼らは技能習得半ばで帰国しても、働き口はほとんどない。」

記事は「入管(法務省)が帰国指導をしても、厚労省は口出しできない。問題が起きた際、実習生らを『保護する』という視点は完全に抜け落ちている」と結んでいます。

日本の国際化はこれまで産業界の要請に基づいてすすめられてきたように思えます。 かつてのバブル景気の時期一九九〇年には「出入国管理及び難民認定法」が改正され、南米などの日系人が「定住者」という在留資格などを有して製造業等の担い手として、とりわけ三K(きつい、きたない、きけん)と呼ばれる職場で合法的に働くことが可能となりました。この時も、産業界から国に対して強い働きかけがあったと言われています。企業にとってみれば、固定給や賞与・社会保険料を負担する必要もなく、忙しい時は何時間でも残業をし、休日でも出勤してくれる日系人の存在は好都合のものだったに違いありません。

日本社会が不景気に突入し「リストラ」という言葉が巷で頻繁に聞かれるようになると、真っ先に解雇対象となったのも南米人などの外国籍労働者でした。大半の事業所では日系人との間に雇用期間を定めた雇用契約書を作成しておらず、会社都合での解雇を簡単に行えたためです。ほとんどの人は退職金もなく、雇用保険未加入なために失業手当も受けられず身一つで放り出されました。また景気の悪化につれて年々時間給の相場も下がっていきました。

一九九九年四月に男女雇用機会均等法の改正と同時に労働基準法が改められ、女性労働者に対する時間外・休日・深夜労働の規制が廃止されると、雇用の分野における男女の均等取扱いと女性の職域の拡大という名のもと、それまで深夜勤務にあたっていた男性外国籍労働者は、より人件費の安い女性外国籍労働者に切り替えられていきました。

そういった流れの延長線上で外国人研修・技能実習制度も国によって創設され、今やニューカマーの主な層は南米系からアジア系へと移ってきています。

 国際化の度合いが国策によって左右されることは、現在の国家間の格差を考えればある程度仕方がないとしても、日本の現在の政策は余りにも経済効果という側面に偏りすぎ、人権への配慮ということがおろそかになっているのではないかと思います。例えば被害者救済という視点。「表面化すれば結局、帰国しなければならない」、その恐怖心をとり内部告発をすすめるためにも、被害者には「特定活動」の在留資格(特別滞在許可)を与え、合法的に日本で滞在できるよう身分を保障すべきだと思いますが、それができないところに現在の施策の限界があります。これは現在の政策の方針を大きく転換させない限り根本的には解決できないことだからです。

 国立社会保障・人口問題研究所(http://www.ipss.go.jp/)が発表した「日本の将来推計人口(平成一四年一月推計)」低位推計によりますと二〇五〇年には現在の人口よりも約三千五百万人程度少ない約九千二百万人にまで減少します。日本人の少子化がこのまま進行し、現在の人口を維持するためにその分をすべて外国籍者に頼るとすれば、毎年約七七万人(この数字は滋賀県の総人口の半数以上にものぼります)もの新たな外国籍住民を必要とします。ところが制度の上でも住民意識の上でも私たちの国際化への対応は遅々としてすすんでいません。

 在日外国籍住民への医療・教育・社会保障などの整備、難民を含め外国人の積極的な受け入れや国内の非正規滞在者への人道的措置、食糧危機・経済格差・環境破壊問題など世界的視野で物事を考えられるような教育への転換など、いずれにおいても日本が開かれた国になっているとは言い難い状況です。

 また研修制度・技能実習制度の問題点もつきつめれば私たちの「内と外」の思想、内には優しく外には冷たいといった考え方にも行きつくかもしれません。「外国人やし仕方ないわな」とか単に「外国人てかわいそうやなあ」と同情するだけで終わっていないでしょうか。この原稿を書いている今、インドネシアのスマトラ沖大地震による津波により死者数は一四万五千人に達しています(一月三日現在)。外での出来事をいつも自分自身の問題として考えられる、そういう人間になりたいものです。

« 07年10月号 不就学をなくすために | トップページ | ブラジルを知るための日本語サイト »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/517759/23765984

この記事へのトラックバック一覧です: 05年2月号 時間三〇〇円で働く外国籍労働者:

« 07年10月号 不就学をなくすために | トップページ | ブラジルを知るための日本語サイト »

日本語(Japonês)

新聞記事(国際化関連)

Jornal (新聞社等)

一般検索(調べもの)

検索(ポルトガル語)

無料ブログはココログ