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2008年2月 9日 (土)

06年12月号 ブラジルの子どもたちは今

ブラジルの子どもたちは今

 日本政府は平成一八年四月二八日に教育基本法の全部改正案を閣議決定し、国会に提出しました。

 時代とともに教育の果たす役割が少しずつ変化し、それに即した形で法律を改正する必要があるのは言うまでもありません。しかしながら、今回の改正案では現行法よりもさらに国家至上主義が強められ、国際的視野に立てる人材の育成や、国内で増大している外国籍や重国籍の人たちなどへの配慮もほとんど感じられず、国際化という観点からは時代に逆行したものとなっています。

 私たちが今こうしている間にも、世界では様々なことが起こっています。世界で起こっている問題を自分自身の問題として捉え、一人ひとりにできることを考える、そのような姿勢こそが今私たちには必要とされています。

 そこで今号では、ブラジルの子どもたちの教育を取り巻く状況について取り上げたいと思います。

 

三つの社会階層とストリート・チルドレン

 今回で私の連載は一五回目になりますが、私は初回(『じんけん』二〇〇四年六月号)、『イラクでの日本人人質事件と命の重み』というタイトルでブラジルでのストリート・チルドレンについて触れました。

 ストリート・チルドレンが生み出される背景には、ブラジル社会の貧困問題があります。貧困は時として家族関係をも崩壊させてしまいます。家庭内暴力、性的虐待、離婚、両親の不在、就学の機会にも恵まれない状況が、子どもを路上生活へと向かわせるのです。

 ブラジルは差別のない国だと言われることがあります。ブラジルはインディオを除けば世界のありとあらゆる国から移住してきた人たちによって成り立っているため、多数派対少数派というような構造からくる外国人差別はほとんどないと思います。けれども、富裕層、中流層、貧困層という社会階層がはっきりと分かれており、街の中では富める者と貧しい者との棲み分けが自然とできてしまっています。

 例えば、お金持ちの人たちのほとんどはショッピングセンターで買い物をします。リオ・デ・ジャネイロのショッピングセンターでは、すべての出入口に警備員や警察官などを配置し、身なりの貧しい人がセンター内に入らないようにガードをしていました。

 ブラジルの商品流通ルートも明らかに二つ存在します。一つはメーカーにより標準化された品質を持つ商品で、それらはショッピングセンターや代理店などで販売されます。もう一つは手工業により生産された製品で、メルカードと呼ばれる商業エリアに持ち込まれて売買されるのですが、価格が非常に安いとはいえ、粗悪品も多く品質が安定していません。そして、ここへ買い物に来る人の客層は、ショッピングセンターとは明らかに違います。ショッピングセンターには白人が多く、メルカードには黒人が多いのも一つの特徴です。

 バスについても、エアコンのない安い運賃のものと、エアコン付で快適な座席となっている高い運賃のものとがあり、所得階層による棲み分けが自然となされています。また富裕層の人が住む地域の中には、その地域全体が高い壁に囲まれ、地域の人専用のゲートで警備員の許可を通じてしか出入りできないようになっている所もあります。

 そのような社会の中で、ストリート・チルドレンは治安を脅かす存在のように思われているところもあるのですが、彼らは社会の犠牲者だとも言えます。時には人身売買、売買春、臓器売買の犠牲となり、ドラッグが蔓延する環境の中で麻薬の運び屋として利用されたり、銃器によって命を落としたりすることもあります。特にファベーラと呼ばれるスラム街の中には、常に生と死が隣り合わせとなっている地域もあります。

IBGE(ブラジル地理統計院)の統計によれば、殺人の発生率は一九八〇年から二〇〇〇年までの間に一〇万人当たり一一・七人から二七人へと二倍以上の伸びを示しました。中でも、青少年による殺人の割合が非常に高く、一五歳から二四歳までの年齢の男性に限れば、二〇〇〇年で同年齢層の男性による殺人発生率は一〇万人あたり九五・六人となっています。またその内、銃器による殺害は七一・七人と約七五%を占め、青少年の銃器犯罪が氾濫している現状がうかがえます。

 銃器などによる殺害が若年男性で多いことは、ブラジルの男女構成比率をいびつなものにしています。二〇〇四年に行われた国勢調査(Pesquisa Nacional por Amostra de Domicílios)によれば、〇歳から四歳までの男女比は五一・〇対四九・〇ですが、二〇~二四歳では男女比率が逆転し、四九・三対五〇・七という割合にまで達しています(表1)

家計を助ける子どもたちと所得格差

 就学機会のない子どもたちの中には、家計を助けるために就労しているケースも多くあります。私がブラジルへ行った時にも、街中で小中学生位の年齢の子どもたちが重たい荷物を背負って物売りをしたり、新聞を売ったり、信号などで車が止まるたびに走っていって窓をふいたりしている姿を見かけました。こういった子どもたちの家族の収入は極端に少ない場合がほとんどで、IBGEの発表によれば、働く子どもたちの家計の一五・五%は、そういった子どもたちの収入によってまかなわれているという結果が出ています。

 これからの世界経済の牽引力となる諸国は、ブラジル、ロシア、インド及び中国の頭文字をとってBRICs(ブリックス)と呼ばれています。二〇〇五年のブラジルのGDPは、ついに韓国やメキシコを超え、世界ランキングで一一位となりました。(財)国際貿易投資研究所(http://www.iti.or.jp)が発表した国際比較統計に基づきますと、ブラジルにおけるGDPの伸び率は二〇〇三年から二〇〇四年にかけては一九・四%、二〇〇四年から二〇〇五年にかけては三一・八%と世界各国の中でも群を抜いています。

 堅調な鉱工業生産や小売販売額、輸出入の拡大、インフレ抑制の成功、対外債務の減少など、ブラジルのファンダメンタルズ(一国の経済状態を示す基礎的指標)は特にここ数年で劇的に改善してきました。

 しかし急速に経済的発展を遂げる国、鉱物資源や農産物に恵まれた豊かな国というイメージとは裏腹に、大多数の国民は困窮生活を余儀なくされています。それらの富がごく一部の人たちに集中し、著しい社会的不平等をもたらしているためです。

 二〇〇二年から二〇〇三年に行われた家計調査(POF)によりますと、一世帯あたりの収入の全国平均は約一七九〇レアル(約九万八千円)となっています。しかし、全国平均の約四分の一以下、四〇〇レアル(約二万二千円)以下が全人口の約一五%を占め、平均よりはるかに低い一〇〇〇レアル(約五万五千円)以下ですらすでに全人口の過半数を占めいています(表二)。一方、富裕層である六〇〇〇レアル(約三三万円)超の所得を有する人口も全人口の五%と、決して少ない数とは言えません。また貧困層と富裕層の平均所得を見るとさらに驚かされます。月四〇〇レアル以下の世帯の平均収入二六〇レアル(約一万四千円)に対し、月六〇〇〇レアル超の世帯の平均収入は一〇、八七九レアル(約五九万八千円)と、その差は実に四二倍です。

さらに地域間格差も非常に大きく、市街地域と農村地域との所得格差は二倍以上、またブラジルは北部、北東部、南東部、南部、中西部の五地域に大別されていますが、特に北東部の農村地域と南東部の市街地域との平均所得は四倍以上にもなっています(表三)。そのため、生活の糧を求める農村地域の人たちが市街地域へ流入し、ファベーラと呼ばれるスラム街が増え続けています。けれども、流入人口を吸収するだけの労働力は都市部といえども生み出されておらず、六大都市の失業率は二〇〇六年に入った現在も依然一〇%以上で推移しています。

 これらの状況の中で、新たな貧困が生み出され、社会の中に厳然として存在する社会階層が、次の子どもの世代へと受け継がれてしまうという悪循環もあります。

 例えば、月あたり収入が四〇〇レアル以下の世帯における消費額を見ると、住居関連費三七・一五%と食費三二・六八%とをあわせただけで総額の七〇%を占め、それに交通費と衣類、保健医療、衛生費を加えると家計支出の九〇%にも達します。これに諸費を加えると余裕資金など全く残らず、月あたりの教育費の平均はわずか〇・七八レアル(約四三円)という状況になるのです。これでは仮に学校へ通えても学用品すら買うお金はありません。

現政権と所得移転プログラム

 固定化しつつある貧困階層に一筋の光をあてた政策は、今年一〇月二九日に六〇・八二%もの得票率を得て再選を決めたルーラ大統領でした。

ルーラ大統領は、飢餓状態にある国民に必要とされる食料を得る権利を保障することを目指し、就任後すぐにフォーミ・ゼロ(Fome Zero)と呼ばれる飢餓ゼロ対策に着手しました。その一環として二〇〇四年一月に創設された家計支援プログラムはボウサ・ファミーリア(Bolsa Família)制度と呼ばれ、貧困世帯へ政府からの収入保障を行うことによって、貧困の軽減、保健・教育分野における基本的社会的権利の擁護、貧困の連鎖の断ち切りを行おうという取り組みを始めました。この対象となるのは約一一一〇万世帯。非常に大規模な所得移転プログラムです。

 各家庭への手当額は、家族一人あたりの収入や子どもの数によって原則として一五レアルから九五レアル(約八二五円~五、二二五円)となっています。そして、この手当の給付にあたっては、保護者が子どもを就学させること、予防接種を受けさせることなどを条件に盛り込みました。この制度により、これまで経済的理由などから働かざるを得なかった子どもたちに就学の道が開けました。また、一定の収入保障を行ったことによって、貧困層の家計の消費が拡大していることも報告されています。

 しかしながら、二〇〇四年の調査では五歳から九歳の子どもたち二五万人以上が、一〇歳から一五歳までの二五二万人以上が就労をしていると報告されています(表四)。今もなお数え切れないほど多くの子どもたちが厳しい状況に置かれており、さらなる取り組みが必要とされています。

ブラジルでは大規模な所得移転プログラムによって格差を減少させる方向での取り組みが始まりました。それは格差社会の中では、貧しい者は貧困の連鎖から抜け出せなくなるという反省から生じたものでした。

教育の自由化は時として学校の差別化も進めることとなります。ブラジルでは貧しい子どもたちは公立学校へ通わざるを得ないのですが、公立学校への教育予算が少ないために、教員の質や教材内容に私立学校との格差が生じ、両者の教育レベルを異なったものにしているという問題があります。そして、どの学校を卒業したかによって、社会に出た際の待遇は異なります。格差社会の恐ろしさは、結果的にチャンスが平等でなくなってしまうことです。

私たちが世界の現状や、これまでの歴史から学ぶことは数多くあります。けれどもそれらは自国の発展という狭い枠ではなく、世界の平和という普遍的な目的にこそ役立てられるべきものです。私たちの目には見えませんが、こうしている間にも世界は同時に回っているのです。

      松井高 

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