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2008年2月 9日 (土)

07年2月号 不就学外国人児童生徒支援事業の取り組み

不就学外国人児童生徒支援事業の取り組み

 この原稿を書いている年末年始(一二月二九日~三一日・一月四日~七日)、私たちインターナショナル滋賀は湖南市で「不就学外国人児童生徒(子ども)実態調査」を行っています。

 訪問する子どもの総数は七四人(対象宅は六六戸)。電話番号などは事前にほとんど分からないため、何度訪問しても留守だったり、戸別訪問が深夜まで及んだりと、活動はなかなか思うようにはかどっていませんが、今回はこの調査をすることとなったいきさつについて述べたいと思います。

不就学に関する現状

 外国籍の子どもたちの不就学に関しては、二〇〇五年六月号と二〇〇五年八月号の『じんけん』でも触れていますので詳細はそちらをご覧いただくとして、ここでは現状について簡単に触れるだけとします。

 日本国憲法第二六条には、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」とあります。しかし、日本国民ではない外国籍の子どもたちの場合、この義務規定は適用されず、日本政府も「我が国に在住する外国籍又は無国籍の児童には就学義務はないが希望すれば、同様の機会が与えられている」という見解を示しているのみです。

 その結果、本人や家族が希望しなければ小中学校就学年齢にありながら学習機会を失ってしまう事態、すなわち「不就学」が生じているのです。

 これに対して私たちは、国籍に関係なくすべての子どもたちに学習機会を提供すべきだという立場をとっています。

 二〇〇六年一二月三〇日付の中日新聞は、岐阜県内の人材派遣会社二社が、一三~一五歳の日系ブラジル人男女一二人を工場で働かせていたとして、労働基準監督署から労働基準法違反として是正勧告を受けたと報じました。子どもたちは「学校の日本語の授業が理解できなくてつまらない。家計を助けたかった」と言っていたといいます。

 児童労働は遠い海外での出来事ではなくて、まさに私たちの身の周りで起こっていることなのです。滋賀県においても不就学の状況に関しては、二〇〇五年四月六日付の毎日新聞・滋賀版(『日系三世のブラジル人少女、中学中退-工場で働き家計を援助』)や二〇〇五年一一月一四日付の京都新聞・滋賀版(『見えない進路 生活費助ける中学生 授業ほとんど分からず』)が記事を報じています。

 「学校全体が嫌い。外国人に『アホ、ボケ』とか言うねん。」「目の色や髪の毛をからかう生徒の声に心を痛めた」「中学校に、心を許せる日本人の友達はいない」「『外国人は帰れ』と言われることもある」、そんな状況の中、子どもたちは時に仕事でくたびれて帰ってくる両親に代わって掃除や洗濯、夕食の支度を行い、「お金が必要。お母さんを助けなくちゃいけないの」などと、家計を助けるために働き始めるようになると記事は述べています。

 保護者が悪いとか学校が悪いとかいうことではなく、子どもたちが今の社会の犠牲になっている現実があり、だからこそ私たちは、不就学の状況を放置しておくことは子どもたちに対する重大な人権侵害だと考えているのです。

 

事業受託にいたるまで

 不就学の状況は中学年齢の子どもだけに限ったことではありません。「たとえ日本政府がどのような見解を持とうとも、子どもたちの現実をしっかり見て、しかるべき対策を一刻も早く講じてほしい」、不就学実態調査を滋賀県で行ってほしいという私たちの願いはそのようなところからきています。

 しかし「予算がない」といった理由や、県へ話にいけば「それは市町で取り組むべき課題」、市町へ行けば「それは県で取り組むべき課題」などといった理由で、私たちの願いはこれまで叶えられることはありませんでした。

 そのような中、外国籍の人たちの労働、医療、教育などの生活課題の改善に向け、私たちは県内のネットワークづくりの必要性を痛感し、二〇〇二年一二月にインターナショナル滋賀の準備委員会を発足、二〇〇四年四月に任意団体として正式にスタートしました。

 不就学に関する現状についても当初から県内各地での情報交換を行い、二〇〇五年五月には長浜市で大学の研究協力という形で調査に参加。ブラジル人が集住しているアパートなどを一戸ずつ訪問し、一四歳でありながら平日はずっと家で家事を行っているという子どもの保護者から、「日本の学校に入れるのが怖い。周囲のブラジル人から、日本の学校に行くとひどい目にあうと聞いている。だから娘を学校には通わせていない」などといった声を聞いていました(詳細は『じんけん』二〇〇五年八月号)。

 これらの情報交換や独自調査などを踏まえ、二〇〇五年六月には近江八幡市で、「外国籍の子どもの教育環境」と題して人権研修会を開催。「外国人の子どもの教育環境に関する実態調査」として本格的な戸別訪問調査を行われた岐阜県可児市から講師の方をお招きし、戸別訪問調査の必要性や調査を通じて見えてきた子どもたちの現状などについて、さらに認識を深めることができました。

一方、文部科学省は平成一七年(二〇〇五年)度に「不就学外国人児童生徒支援事業」を新規創設。「①就学実態の把握及び不就学の要因分析、②就学を支援するための取組を実施する」ことを目的とした施策を開始し、初年度には、群馬県太田市、長野県飯田市、静岡県掛川市、静岡県浜松市、静岡県富士市、岐阜県美濃加茂市、愛知県岡崎市、三重県四日市市、大阪市、神戸市、大阪府豊中市、兵庫県姫路市の一二自治体が選定されました。

この時滋賀県では残念ながら受託自治体がありませんでしたが、同年八月五日に行われた私たちインターナショナル滋賀と県教育委員会との話し合いの場の中で、次年度は事業を受託できるよう県として前向きに取り組む方向性が示されました。

 私たちNPOは不就学に関する情報交換を進めるとともに、教育に関する新たなネットワーク組織「外国にルーツを持つ子どもの教育と人権ネットワーク滋賀(以下、略して「がるきょんネット」という)」を二〇〇六年二月一六日に結成(※現在の構成団体はインターナショナル滋賀、近江八幡外国籍市民ネットワーク、クルーベ・クルミン、GRUPO IPE、子どもくらぶ「たんぽポ」、NIBRA在日外国人教育を考える会滋賀、ハムケモイジャ、ワールド・アミーゴ・クラブ)。教育課題に対して協同して取り組むことや、外国籍の子どもの就学状況等について各市町教育委員会への聞き取り調査を行うことなどを決定しました。

 二〇〇六年三月二八日には、がるきょんネットとして初めて滋賀県教育委員会と会合。外国にルーツをもつ子どもの教育状況改善へ向けた抜本的な取り組みについての意見交換の一つとして、不就学状況の調査について協働で取り組むことの重要性を認識しあうことができました。

事業受託から戸別訪問調査まで

 六月には不就学外国人児童生徒支援事業を滋賀県が新規受託(同年、その他の新規受託自治体は愛知県豊田市のみ)。文部科学省の同事業の要綱では実施主体は市町村教育委員会となっていましたが、「外国籍住民が集住している地域に限定せず県全体として問題への取り組みを行ってほしい」という私たちの願いに応える形で、県教育委員会が文科省と折衝され、滋賀県に関しては唯一、県レベルでの事業受託が認められることとなりました。

 またそれに先駆け、五月二六日の私たちと県教育委員会との話し合いの中で、不就学調査や小中学校へ入る前の初期的な日本語学習などを行っておられる「ばら教室KANI」など先駆的な取り組みをしておられる岐阜県可児市への視察の話が持ち上がり、六月二六日には県教育委員会、県国際課、県国際協会、そして私たち合同で可児市へ出かけ、研修機会を持つことができました。

 八月四日に行った県教育委員会とがるきょんネットとの会議では、今回の調査は就学支援に向けた取り組みの一環として行うものだという共通認識を再確認した後、①何らかの学校に在籍しているかどうか、②在籍しているとすればどこの市町の学校に在籍しているか、③それはどのような種類の学校か(例:日本の公立学校、外国人学校など)の三つの質問に絞った調査票を多言語で作成し、県内全域の各市町教育委員会を通じて予備調査を行うことが決まりました。

 八月の第二週には各市町教育委員会へ同調査票の配布が終了し、九月の第二週には各市町教育委員会から県教育委員会への報告をしていただくこととなっていましたが、各市町での予備調査が思うように進まなかったため、次に県教育委員会と私たちとの間で話し合いの場を設けられたのは一〇月二〇日と、大幅に当初予定よりずれ込んでしまいました。

 その会議開催への準備に平行して、文部科学省から送付された「不就学外国人児童生徒(子ども)実態調査項目」に基づき、①外国人登録から子どもの氏名、国籍、生年月日、住所などを拾い出すための「個人登録票(1枚目)」、②個人登録票(1枚目)に基づいて戸別訪問調査を行い、訪問日時、居住実態などを記入する「個人登録票(2枚目)」、③戸別訪問によって聞き取りを行い、その内容を記入する「質問票(全部で4頁)」の三種類の記入用紙を作成しました。

 この時点では、各市町から寄せられた報告をベースに県内全域での戸別訪問調査の可能性も検討していました。しかし、九月一日時点での小中学校就学年齢の外国人登録者数一五八五人(在日韓国・朝鮮人児童生徒を除く)のうち「学区内に住所があるが公立学校に在籍していない人数」はその約四割にあたる六三〇人、また、再調査が必要な子どもの総数は二一八人、調査区域は一三市町にまたがるという結果が出たため、県内全域での調査を断念し、地域を絞って戸別訪問調査を行うこととなりました。

 いざ戸別訪問調査を行おうとなると、個人の情報公開や、事前の資料作成、調査の趣旨理解と協力体制の確保など、地元教育委員会の全面的なバックアップなしには行えません。これに関しては県教育委員会が市町教育委員会と個別に交渉され、最終的に湖南市で集中的に戸別訪問調査を行うことが決まりました。

 また実際の戸別訪問に関しては、インターナショナル滋賀が窓口となってスタッフの取りまとめを行うこととなり、一二月六日には県教育委員会、湖南市教育委員会との打ち合わせ会議を行いました。

その会議を受けてタイムスケジュールなどを検討していましたが、調査の対象宅の大半である南米国籍の人たちに関しては、残業時間が長いために毎日の帰宅時間が遅かったり勤務形態も不規則だったりという傾向があることを考え、年末年始を中心に戸別訪問調査を行うことを県・湖南市教育委員会に打診することとしました。

年末でお互いに忙しい中で急遽このような計画を考えましたが、年末年始の調査時の拠点確保(湖南市役所庁舎内の会議室開放)、同期間内における職員の出勤、迅速な決裁など多くの便宜を図っていただくことができ、一二月二七日には最終の打ち合わせを三者(県・市教育委員会と私たち)で持つことができました。

現在行っている調査の中では、中学校就学年齢に限らず、小学校就学年齢であっても全く就学していない子どものいることが分かりました。また、調査を通じて、保護者の方々の就労状況や、ブラジル人学校(※法的には「学校」とはみなされていません)が果たしている役割の重要性についても再認識させられました。調査結果については、機会があればここでもいつか書かせていただきますが、子どもたちの教育状況の改善が一刻も早く、全県的に行われることを望んでやみません。
 
  松井 高
 

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