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2008年2月 7日 (木)

06年10月号 外国籍の子どもたちの教育状況をどのように改善するか?

外国籍の子どもたちの教育状況をどのように改善するか?

日本国憲法第二六条には「教育を受ける権利」と「普通教育を受けさせる義務」が謳われています。しかしながら「外国籍又は無国籍の児童には就学義務がない」(政府見解)ため、小中学校就学年齢にありながら学籍を有さない「不就学」の子どもたちの問題は、ごく最近までほとんど何の対策もとられてきませんでした。日本人には「不登校」はあっても「不就学」はありません。そのため、外国籍の子どもたちに特有のこの現象は、重大な人権侵害にあたるのではないかという認識を私たちは持っています。

また、公立の小中学校へ在籍している外国籍の子ども(以下、無国籍の子どもたちを含むものとする)の状況についてもほとんど何も分からないままです。外国籍の子どもたちがはたして毎日学校へ通えているのか、欠席がちとなっているのか、長期欠席となっているのか、その理由は何なのか、さらに中学校卒業後の進学者数やその進路先、就職者数等についても全国的に何も把握されていないのです。

 滋賀県においても外国籍の子どもたちの現状はほとんど分からないままですが、断片的に公表されている数値もあります。

「不就学」の子どもの状況については、二〇〇三年九月と二〇〇五年一二月の県議会答弁からその問題の一端を推し測ることができます。

小学校就学年齢相当者数

小学校在籍者数

中学校就学年齢相当者数

中学校在籍者数

2003

984

727

516

350

2005

1,304

827

548

306

 「不就学」という言葉は全国的にもはっきりした定義がありませんが、小中学校就学年齢にありながら学校へ在籍していない状況を仮に不就学と呼ぶならば、滋賀県での不就学者数は小学校就学年齢で二〇〇三年の二五七人から二〇〇五年には四七七人へと八六%増加、中学校就学年齢で同一六六人から二四二人へと四六%も増加し、二〇〇五年時点では小学校年齢で三人に一人以上が不就学、中学校年齢ではほぼ二人に一人が不就学という驚くべき結果です。

滋賀県の小学校年齢における不就学率  
 
全体1304

不就学者477

200512月県議会答弁による)

滋賀県の中学年齢における不就学率      
  
全体548

不就学者242

200512月県議会答弁による)

 もちろん、この数値は学習機会を持たない子どもたちの現状をそのまま反映したものではありません。楽観的にみればほとんどの子どもたちはどこかで何らかの学習機会を持っているのかもしれません。しかしながら、これらの子どもたちが今どうしているのか全く把握されていないことは大きな問題です。

 その他、学籍を有している外国籍の子どもたちに関する通学状況(長期欠席者の数など)、進学者数や就職者数については、滋賀県では数値として公表されたものはありませんが、日本語指導が必要な外国籍の生徒のうち今年二〇〇六年三月に中学校を卒業した者は四六人、高校へ進学したのは一八人という数字だけは発表されています。

平成17年度・滋賀県の小中学校における在籍人数

小学校

中学校

児童数

学校数

生徒数

学校数

505

79

171

41

 

平成17年度・滋賀県における母語別児童生徒数の内訳

(日本語指導の必要な児童生徒数:人)

ポルトガル語

中国語

スペイン語

その他

438

32

187

39

696

 

 

 学校基本調査によりますと、中学校卒業者のうち「高等学校等進学者」の割合は約九八%ですから、「日本語指導が必要な外国籍の生徒」の進学率三九%との格差は歴然としています。来日間もない子どもたちにとって、あるいは小中学校在籍期間に学習支援が十分でなかった子どもたちにとってはきわめて厳しい現実です。

 また、中学校年齢で学習機会を失う外国籍の子どもたちも多くいると思われます。小学校就学年齢と中学校就学年齢での不就学率の違い(中学校年齢での不就学率が、小学校年齢の不就学率よりも七%多い)や、日本語指導が必要な外国籍の生徒の数(生徒数一七一人を単純に三学年で割ると一学年あたり五七人)と実際の今年の卒業者数四六人との違いなどから、滋賀県では進路選択以前に中学校卒業すらも難しくなっているのではないか、という状況も推測できます。

 いずれにしても外国籍の子どもたちの教育環境を抜本的に改善するためには、子どもたちの就学状況、登校頻度、進路状況などの実態を正しく把握し、問題点があればその原因を探り、課題を整理し、課題解決のための道筋を考えるという基本に立ち返ることが不可欠です。

 

今できることは何か?

 しかしながら、子どもたちの貴重な時間は着実に過ぎ去っていきます。実態把握などと並行し、今できることをすすめていくことが重要なのは言うまでもありません。

 外国籍の子どもたちへの公的な学習支援に関しては、これまで幾つかの試みが行われてきました。滋賀県では加配教員の配置と非常勤講師の派遣(平成五年度~)や、『架け橋(学校連絡文書の翻訳集)』の発行(平成九年)、平成一七年度からは「地域が抱える教育課題に対応した指導者養成推進事業」として、日本語指導にあたる加配教員や講師へのポルトガル語・スペイン語入門講座、非常勤講師の指導補助を行う学生指導助手の派遣、外国人児童生徒教育実践交流会が行われ、今年度からは「外国人児童生徒ほっとサポート事業」(母語を介したコミュニケーションや学習、学校生活への支援)や、「不就学外国人児童生徒支援事業」として、就学実態の調査が始められています。

また、各市町では小学校入学時における就学案内が行われ、市町単独で教育相談員や日本語指導員などを配置したり、休暇期間中に学習支援を行ったりしている場合もあります。

しかしながら、これらの施策がどれほどの効果を上げてきたのかということは必ずしも検証されてはいません。例えば、日本語指導にあたる非常勤講師については言葉の問題から子どもや保護者とコミュニケーションをとることが難しい、一方、日系人等が通訳をしながら学習支援を行う場合では、教科書に書いていることが自分自身にも難しくて教えにくい、などといった声が聞かれます。

また外国籍の子どもたちにとって、週数時間の日本語指導以外の時間が学校生活の大半を占めているのですが、授業内容が分からない、宿題を出されても質問の意味が分からない、といった深刻な問題があります。例えばHe plays tennis.”の意味は理解できても、プリントに「上記の文を否定文にして書き改めよ」などと書かれていると質問内容が分からず回答できなくなってしまうのです。辞書を使って自分で文章の意味を調べようとしても、漢字が読めない、漢字の読みをどのように調べればいいのか分からない、ポルトガル語やスペイン語の辞書に載っていない単語(「平行四辺形」「寒冷地」「めしべ」などの学習用語)があまりにも多いといった問題もあります。これらの問題を軽減するためには、教科内容の理解を促進するための自主学習用教材や副教材の整備が必要不可欠なのですが、全国的にもこの作業はほとんどすすんでいません。

さらに、日本語基礎の力がないままに学校へ入る制度上の問題もあります。例えば、日本人の社員が海外転勤となった場合、ほとんどの企業では日本国内及び現地で短期集中的に社員への語学研修を行っていることと思います。現地の人とのコミュニケーションを円滑に行うためには当然のことです。しかしながら、外国籍の子どもが日本の学校へ入る場合には、まったく日本語が分からない状態でも、(原則として)その年齢に応じた当該学年クラスへ何の予備学習もなしに入ることとなります。

このことは受け入れ側である学校を困惑させるだけでなく、外国籍の子どもにとっても非常に大きな精神的負担となっています。それは、授業の理解が困難というだけではなく、クラスメートなどとのコミュニケーションがうまくとれないことによって、外国籍の子どもの孤立感、コンプレックスを高めることともなるためです。

そこで私たちは、外国籍の子どもたちの学習支援を目的としたセンター(以下、学習支援センター)づくりを提唱してきました。

学習支援センターの目的は、①学校生活を円滑に過ごすために必要とされる基本的な日本語習得の支援を行うこと【日本語初期指導】、②地域の人たちなどとも積極的に交流する中で子ども自身の孤独感をなくし、精神的に安定した状態で学習意欲を高めること【学習モチベーションの高揚】、③不就学状態をなくし、小中学校就学年齢にあるすべての子どもが学習機会を失うことのないようにすること【学習機会の提供】、④日本語学習・教科学習を手助けするノウハウに関する情報収集と必要とされる教材の開発【リソースセンター機能】、

⑤放課後や長期休暇期間中(夏休みなどの学習支援【放課後支援】です。

 本来は外国籍の子どもたちの生活圏内にこういったセンターが一つはあれば良いと思うのですが、とりあえずはモデル的に学習支援センターを一箇所でも創設し、(A)実態やニーズの調査、(B)事業企画案づくり、(C)事業の実施企画、(D)費用対効果の検証、(E)実施事業の再修正という一連の流れを経る必要性も感じています。

 もちろん、このような取り組みは学習支援センターだけで完結できるものではありません。学校や教育委員会、外国人登録などの行政窓口、保護者が勤める会社、NPOや地域住民など、様々な人たちや関係機関との連携が必要となってきます。また、学習支援センターの常設が求められることから、人件費や施設管理費等も必要となり、その財源をどのように確保するかという問題もあります。けれども、人づくりへの投資は必ず実を結ぶものです。この投資を怠れば、私たちの社会に大きな禍根を残すこととなるのではないでしょうか。

松井高 

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