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2008年2月 7日 (木)

05年8月号 外国籍の子どもたちの今と未来のために

外国籍の子どもたちの今と未来のために

 「日本の学校に行くのが怖いと感じる。また周囲のブラジル人から、日本の学校に行くとひどい目にあうと聞いている。だから娘を学校には通わせていない。」

あるブラジル人のお父さんは、私たちにそう答えました。娘さんは一四歳。来日して一年近くどこの学校にも通うことなく、親が日中働きに出ている間、家で留守番を一人でしていると言います。

 その日(今年の五月七日)、私は松尾隆司(まつおたかし)さん(龍谷大学国際文化研究科・博士課程)が行っている『南米出身者を中心とする外国籍児童生徒の教育に関する実態調査』に随行し、長浜市でアンケート調査を行っていました。

 滋賀県は南米国籍の人たちが近畿の中では最も多く、例えばブラジル人の外国人登録者数(二〇〇三年末現在)だけでも大阪府四八〇八人、兵庫県三七七四人に対し、滋賀県では一〇九九五人と、その差は歴然としています。その中でも長浜市は南米国籍の人たちが特に集住している市で、県内の南米国籍者数の約四分の一にあたる三千人もの人たちがこの地で暮らしています。そのため長浜市で街頭調査をしようということになったのですが、目的とするアンケートを回収することは容易なことではありませんでした。

 この日は午後から長浜市内にあるカトリック教会でポルトガル語のミサがあるということを聞いていました。そこで私たちはまずその教会を訪ね、ミサの関係者や神父さんにお願いし、またミサの中でも参列者にアンケートへのご協力を呼びかけさせていただきましたが、調査対象を<六歳から一五歳の子どもと同居する世帯>としていたため、数件ほどしか回収できませんでした。そこで南米系の食材店やレストランを訪れ、そこに来た人たちにアンケートをとろうと試みましたが、それでもなかなか数が集まりません。仕方なく、道を歩いている南米らしき人たちに声をかけ、南米の人たちが多く住んでいるアパートやマンションがどこにあるかを尋ねながら、戸別訪問で調査を行う方法に切り替えました。

 しかし、アパートの郵便受けで南米の人が住んでいるかどうか確認しようと思っても、ほとんどの郵便受けには名まえが書いていません。やむにやまれず一軒ずつインターホンを押して廻ることとしました。場所によっては日本人や南米以外の人たちが玄関に出てこられましたが、その度に「すみません。押し間違えました」とか「こういう目的で戸別訪問をしているのでご迷惑をおかけしました」とか頭を下げながら調査を続けました。

 結局その日の午後一〇時近くまで、訪問件数は二五〇戸、そのうちアンケートを回収できたのは一〇数件にしか過ぎませんでしたが、わずかそれだけの中でも冒頭に挙げた不就学の子どもや、本当はブラジル人学校に入れたいけれども経済的な理由で日本の学校へ入れているといった話を聞くことができました。また、直接は今回の調査対象とはなりませんでしたが、本国に子どもを置いて両親だけが働きに来ているケースが非常に多かったことも印象的なことでした。

さて、私たちはこれまでも《外国籍の子どもの教育に関する実態調査》の必要性を主張してきました。外国籍の子どもの教育を取り巻く環境という枠で見れば、

    乳幼児

    これから学校へ入ろうとする子ども

    現在小中学校に通っている子ども

    外国人学校やその他の教育施設に通う子ども

    義務教育修了後の進路を考える子ども

    高等学校などに通っている子ども

に対する総合的な取り組みが必要なのはもちろんのことですが、実態把握の重要性を訴えるために私たちはとりわけ、義務教育年齢にありながら不就学となっている子どもたちの状況について(問題の氷山の一角として)様々な場で話題として取り上げてきました。しかし不就学の子どもたちに関する私たちの知識も非常に断片的なものであったため、(全国籍の)外国籍の子ども(「日本の学校」でいう「小一年生~中三年生」に該当する子ども)を対象に全戸の訪問調査などを行われた可児市の取り組みについて話を聞く機会を作りたいと以前から考えていました。

そこで、インターナショナル滋賀(私が代表を務めるもう一つのNPO団体)では今年六月四日に『外国籍の子どもの教育環境』というテーマで人権研修会を行い(当日は各種NPO会員や自治体職員、教職員、学生や一般からも含め参加者は約五〇名)、二〇〇一~三年度厚生労働省「多民族文化社会における母子の健康に関する研究」班として調査活動に携われ、現在も可児市教育委員会で外国人児童生徒コーディネーターをされている小島祥美(こじまよしみ)さんをお呼びする機会を持つこととしました。また、初田元明(はつだもとあき)さん(在日外国人の教育を考える会・滋賀 事務局)からは「滋賀の外国籍の子どもたちをとりまく状況」について、松尾隆司さんからは先に挙げた長浜市や米原市で行った調査についての結果報告をいただき、外国籍の子どもたちの現状理解をさらに深めるための機会ともしました。

前回の『じんけん』(〇五年六月号)でも述べましたように、就学年齢にある外国籍の子どもたちの不就学者は、滋賀県では小学年齢で約四人に一人、中学年齢では約三人に一人という状況です。他府県での不就学率はどうかと言いますと(外国人集住都市会議の二〇〇二年資料に基づく)、静岡県磐田市二二・六%、静岡県湖西市三四・三%、愛知県豊橋市一八・七%、愛知県豊田市九・一%、岐阜県大垣市四一・八%、岐阜県美濃加茂市二二・七%、三重県四日市市一六・九%、群馬県太田市三五・五%、長野県飯田市二三・六%などという状況です。可児市に関してはこの時の資料では不就学率を三六・〇%としていましたが、二〇〇三年度前期には四・二%、同年度後期には七・二%、二〇〇四年度には六・八%と報告しています。

不就学率に数十%もの開きがあるのは、そもそも「不就学」という定義が曖昧になっているためです。

 例えば、公立の小中学校に在籍する子ども以外を不就学とすれば、その不就学者の中には外国人学校に通う子どもたちも含まれますし、また、不就学とみなされている子どもたちの中には外国人登録(住所登録)だけは現在も残っているが他市町村へ引越しており登録地での居住実態がないということもあります(これは現在の外国人登録制度自体の問題でもあります)。本国(外国政府)からの認可を受けていない外国人学校や託児所のような所を含めて就学とみなすかどうかという問題もあります。またこれとは反対に、学校に籍を置いていても長期欠席となっていたり、日本語教室の時間だけしか出席しないなど週数日だけの登校となっていたりという場合があり、「学校に籍がある=就学している」とは必ずしも言えない状況もあります。すなわち、実態を唯一正しく把握できる方法が、①<対象者宅への戸別訪問調査>ならびに②<各小中学校への訪問調査>なのです。学校に来ていない子どもの実態については本人や本人家族に尋ねる必要がありますし、学校への登校頻度などについては学校で直接調べなければ客観的な事実が分かりにくいためです。

また戸別訪問調査については、中途半端な形で行うとあまり意味をなさない場合があります。例えば、対象者宅を訪問したが留守だったというケースを調査結果「不明」とした場合、この「不明」の中身を明らかにしなければ子どもの教育機会の保障にはつながりません。たとえ一〇〇人中九九人の実態が分かったとしても、残りの一人にとっては自分の人生がすべてなのですから。

 なぜ不就学になるのか? ということについては可児市が行った『外国人の子どもの教育環境に関する実態調査―二〇〇四年度調査報告書―』に、【子どもの声より、特徴的な意見を抜粋】として、次の内容が書かれていました。

        お父さんの仕事がなくなり、お金がなくなって、行けなくなってしまった。小学校は楽しかった。日本語の教室は楽しかったし、先生も優しかったから好きだった。

        お金を貯めてブラジルで勉強をするために、仕事をしなければならない。私が大学を卒業することは、お母さんの希望だし。

        お祖父ちゃんに会うために、一人でブラジルへ行った(二〇〇四年一~三月)。帰国後は日本の学校の勉強についていけなくなった。学校の先生は誰も自分のことを心配してくれないし、高校へ行く気がなくなってしまった。夏休みにアルバイトを始めて、そのままその仕事を続けています。前の日本語教室の先生は心配してくれたけど、今の先生達は何も言ってくれなかった。通訳の先生から電話があった時、「学校を辞めないの?」と言われた。

        勉強(漢字)が分からなかったから。

        日本の小学校を卒業してからポルトガル語を学ぶためにブラジル人学校へ行ったけど、ついていけなかった。ブラジル人学校へは二年行ったけど難しかった。ポルトガル語がわからないので、年齢より下がって学校に入った。

        勉強は好きだったので続けたかったが、行かせてもらえない。旅行へはブラジルへは行きたいけど、日本の方に慣れたし、こっちがいい。今はテレビを見て日本語の勉強をしています。

        親が「ブラジルに帰国するから」と言っているので、日本では学校へ行ったことがない。

        外国人が日本の学校に入学できることを知らなかった。

        タバコをやめられないから。両親が帰国していたとき、タバコを始めました。日本の学校へ行かせたいと両親は言いますが、タバコをやめられないので、学校へは行きたくないです。僕と父は日本に慣れたので、もうブラジルには帰りたくないです。日本はゆっくりできるので。一三年ブラジルには住んだけど、帰りたくないです。

また、不就学になった子どもはどのように日々過ごしているのか? ということについては、同調査で不就学となっていた二五人のうち、「就労(アルバイト等)」が九人、「家事・家庭」が九人、「何もしていない」が七人という結果で、「部品を作る工場」での労働、「両親がお店を経営しているのでその手伝い」、「家事」、「何もしていません」「外でプラプラしている」といった答えの他、「七ヶ月の子どもがいる。今年生まれました。毎日子どもの面倒を見ているので、学校には行けない」という声もありました。

 文部科学省は今年度、外国籍の子どもたちの教育状況の現状把握とその改善に向けて、調査や就学支援を行おうとする自治体をサポートするために総額2300万円あまりの予算を計上しました。しかし近畿では、大阪市、大阪府豊中市、神戸市、兵庫県姫路市の四自治体が選定されたものの、真っ先に手を上げるべきとも言える滋賀県の自治体がすっぽり抜け落ちたまま実施主体が決定となりました。予算がないとか、国の制度や法律に関わる部分が多いために取り組みが難しいということを今まで聞いてきただけに、今回のことをどのように受け止めれば良いのか理解に苦しんでいます。

 私たちは今まで、外国籍の人たちの声を聞くことや、自らも予備調査に関わったり、県内でのネットワークを築く一方で全国の先進地からも積極的に情報収集を行ったりしてきました。けれども、私たちの知識やノウハウ、熱意といったものだけでは十分な取り組みができないことも事実です。

今こうしている間にも子どもたちの貴重な時間はどんどん過ぎ去っています。外国籍の子どもたちの今と未来をより良いものにできるよう、私たちは様々な人たちと協働できることを強く望んでいます。

松井 高 

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