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2008年2月 7日 (木)

05年6月号 不就学となっている子どもたち

不就学となっている子どもたち

―外国籍の子どもへの教育機会の保障―

 

「以前は日本の学校に行っていたけれどもいじめがあったので(滋賀県内にある)ブラジル人学校へ子どもを転校させた。」そんな話をあるブラジル人のお母さんから聞いたのはごく最近のことです。

(学校教育法に規定された)日本の学校から(ポルトガル語でブラジル流の授業を行う)ブラジル人学校へ転校するということは、その余りにも大きな環境の違いゆえに子どもの一生を左右することとなるかもしれません。にもかかわらず「いじめにあった」という、本人や親の意思とは異なる理由でその子の歩む道が決まってしまう……しかも、そのような消極的な理由による《日本の学校からブラジル人学校へ》という流れは決して珍しいことではなさそうです。

ブラジル人の子どもたちが口にする「(クラスメートから)差別されている」「自分だけ違った目で見られる」という言葉はどこまでが本当に差別でどこまでが誤解によるものかは状況をよく確かめなければならないことがあります。それは一部には文化の違いによる誤解という面もあるからです。例えば、「おまえアホか」と言われて頭を叩かれたという場合、「アホ」という言葉に実は親しみの感情が入っていたとしてもそのニュアンスは外国籍の子どもには伝わりません。また、頭を叩くことは最も侮辱的なことだと教育を受けてきているブラジル人にとって、親しみを込めて頭を叩くといった表現は理解し難いことです。一方、「おまえみたいなやつ、国へ帰れ」とののしられたり、日本語がおかしいからとか容姿が日本人と違っているからという理由でからかわれたり、あるいは暴力によるいじめを受けたりという場合には、単なる文化の違いという問題ではありません。

ところが、後者のようなことを程度の差はあっても子どもたちの多くが経験をしており、それゆえ「ブラジル人学校が日本の学校に行けなくなった子どもたちの受け皿になっている」側面があることは否定できないことのように思えます。(積極的な意味でブラジル人学校に通っている、通わせている人が大半だとは信じたいですが……)

子どもたちの間で何が起こっているのか少しでも状況を把握したい、そんな思いで私たちは《外国籍の子どもの教育に関する実態調査》の必要性を様々な場で主張してきましたが、その想いは未だに実現していません。

例えば上記に述べた実態調査の必要性については、草津市議会でこれまで二度にわたり取り上げられています。二〇〇三年六月議会では「外国籍の方々のうちでも、先に述べましたニューカマーや在日歴の長い韓国・朝鮮人、あるいは短期の留学生など多様であり、さらには在日期間、在日目的、帰国予定の有無など、ケースが多岐にわたりますことから、市単独で実施させていただくことは非常に困難を極めるのではないかと考えております。したがいまして、これらの実情を踏まえ、隣接の市とも連携をし、国籍や人種を超えた、広く人権の問題として取り組むよう県に働きかけていきたい」と、このような取り組みは「人権の問題」に関連するという認識が示されましたが、今年三月の議会では「隣接市に働きかけるとともに、県の考え方を確認しましたところ、在住外国人の諸問題においては、国の制度や法律に関わる部分が多く、県や市で対応できる分野や範囲が限定されることから、在住外国人の方を対象とする具体的な計画はない」という答弁によって終止符が打たれてしまいました。

そもそも外国籍の子どもたちには(日本では)教育の義務が課されていないために、小学校就学年齢に達した後日本の学校へ入学しなくてもその後の追跡調査はなく、また転校をしたり小中学校を中途でやめたりした場合でもその後の実態は把握されないままです。私が知っている子どもの中にも小学校就学年齢で来日したにもかかわらず、在宅のままついに一度も中学校へ通うことなく終わってしまった子もいます。

不就学の実態がほとんど何も分からなかった中で、政府は最近になってようやく「日本に滞在する外国人の定住化が進む一方で、学校に通っていない多数の不就学児童・生徒がいることから、文部科学省は初の実態調査に乗り出すことを決めた(〇四年九月二五日付け朝日新聞)」と、具体的な取り組みを行う姿勢を見せていますまた群馬県大泉町や岐阜県可児市のように、市・町単独として戸別訪問による実態調査を行う自治体も出てきました。

滋賀県では数年前まで不就学となっている外国籍の子どもの概数すら全く把握されていませんでしたが、二〇〇三年九月の滋賀県議会で「外国人登録から、小学校就学年齢相当者九八四人、中学校年齢相当者五一六人、高等学校三年間の年齢に相当する者六九九人というふうに聞いておりますが、現在、公立の小学校在籍者は七二七人、中学校在籍者は三五〇人、高等学校在籍者は三四人」と具体的な数字が初めて公表され、公立学校への就学率は小学校で約七四%、中学校で約六八%、また高等学校の在籍率は約五%であることが分かりました。

しかし、小学校就学年齢の約四人に一人、中学校就学年齢の約三人に一人が不就学という数字が公表されたにもかかわらず「在籍をしていたが、訪問をしてみると居住地におられなかったというような例も聞いておりまして、また、私設の学校あるいは外国人学校など、公立以外の学校や専門学校などに在籍する者も考えられる(〇三年九月滋賀県議会)」「日本に外国人登録をされていながら本国に帰国されている方や、それぞれの国籍の方が自主的に運営されている民族学校やインターナショナルスクールに在籍されている方、または日本の学校に就学される意思のない方ではないかと推測しております(〇五年三月草津市議会)」という答弁が行われたのみで、実態を明らかにしようという取り組みはその後行われていません。

そんな中、今年の四月六日付け毎日新聞(滋賀版)は『工場で働き家計を援助/滋賀 

義務教育の規定は適用されず―日系三世のブラジル人少女、中学中退』という見出しで次の記事を掲載しました。

「学校全体が嫌い。外国人に『アホ、ボケ』とか言うねん。だからうざい」。双子姉妹のソニアとシルビア(一五)=仮名=は日系三世のブラジル人。日本語とポルトガル語をごちゃ混ぜにして話すその表情は、とても無邪気に見えた。日本の学校に通う義務のない二人は中学校生活を一年残し、今春から県内の工場で働く。
 八年前に来日し、工場で働く両親と生活。一学年遅れで地元の公立小学校にも入学し、日本語は会話や授業に支障がないほど上達した。でも学校には、何とも言えない居心地の悪さを感じた。最近は週二回ある日本語教室の時だけ登校。「することがない」平日の昼間は、両親に代わって家事をしたり、家でDVDを見て過ごしている。
 働くのは「家計を助けてほしい」という母親の希望でもある。父親は「中学は卒業を」とも望んだが、二人は「自分で使えるお金が欲しいから」と仕事を選んだ。仕事を始めれば毎朝、会社の車が迎えに来る。「高校には行きたくないの?」と尋ねると「授業料が高くて無理」「私は割り算もできないくらいだから」と返ってきた。
 週末には、父親から五〇〇円ずつ小遣いをもらってショッピングセンターに行った。同年代の在日ブラジル人が十数人以上集まり、店内をぶらぶらして半日を過ごす。所持金は昼食のハンバーガー代に消える。「働けば毎月一五万円もらえる。一万五〇〇〇円は家にやって、残りは貯金。五万円くらいは自分で使う」「こっちに来てから一回もブラジルに行ったことないし。日本の方がいい」。二人は将来、母国に帰るつもりはない。
 クリスチーナ(一四)=仮名=も、中学校に通わない選択をした少女だ。ぱっちりとした目に茶色の瞳、ウエーブした髪は天然のパーマ。日本人にはない目と髪を武器に、ファッションモデルを目指す。
 生後七カ月で来日。保育園から日本人と同じ所に通ったが、中学校で目の色や髪の毛をからかう生徒の声に心を痛めた。次第に学校から足が遠のき、昨年、二年生の途中で正式に除籍。昨夏から、毎週末に名古屋のモデル学校に通い、ウオーキング、メーク、ダンス、ファッションセンスなどの基礎を学んだ。
 次の目標はオーディション合格。「最近では背の高さや顔でなく、『髪の毛がいいから、目がいいから』と、起用されることがある。だからこの髪でうれしいし、この瞳でうれしい」と誇らしげだ。「モデルの仕事が落ち着いたら、ブラジル人学校に通いたい」
 「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」という憲法の項目は、「国民」でない外国人には適用されない。

県教委には、県内で日本語支援が必要な児童・生徒は小学校四一〇人、中学校一六五人というデータがある。しかし、公立校にもブラジル人学校にも通わない子どもたちの数や実態は、調査すらされていない。
 日系南米人が多く住む全国の一五都市で作る「外国人集住都市会議」では「『子どもの就学』を在留資格更新の要件とすべきだ」といった提言も出ているが、対策はまだ緒に就いたばかりだ。」

「児童の権利に関する条約」(一九八九年に国連総会で採択、一九九〇年に発効、日本は一九九四年に批准)第二八条第一項は「教育についての児童の権利」を次のように謳っています。

 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、 

(a)初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。 

(b)種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる。 

(c)すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教育を利用する機会が与えられるものとする。 

(d)すべての児童に対し、教育及び職業に関する情報及び指導が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとする。 

(e)定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置をとる。 

 

 児童の権利に関する条約は国内法に優先するものです。しかしながら、日本政府は「我が国に在住する外国籍又は無国籍の児童には就学義務はないが希望すれば、同様の機会が与えられている」(第一回政府報告)としているのみで、すべての子どもたちの教育機会を公的に保障するのだという積極的な姿勢が欠けているように思います。

 同条約の第六条は「すべての児童が生命に対する固有の権利」を有し、「締約国は、児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する」こととしています。

 心身ともに発達途上にある子どもたちにとって、自分の未来に対して夢と希望を持ち、人としてたくましく生きる力や、日々の生活を過ごす上で大切にしなければならない心について学べる教育の場は必要不可欠なものです。「児童の最善の利益」のために皆が協力し合って取り組みを進めていくことが今私たちに強く求められています。

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