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2008年2月 7日 (木)

05年10月号 外国人児童生徒に関する指導指針について

外国人児童生徒に関する指導指針について

 二〇〇五年七月、滋賀県教育委員会から「外国人児童生徒に関する指導指針」が発表されました。「すべての児童生徒が国際化の進展に対応できる広い視野を持ち、互いを認め合い、ともに生きようとする資質や能力を育成する」ことを謳い、①国際理解教育の推進、②進路指導の充実、③教職員研修の充実、という内容について言及したことの意義は大きいと思います。
 しかしながら同指針を単なる理念として掲げるだけでは、外国籍の子どもたちの教育環境が何ら改善しないことは言うまでもありません。

そこで今回は、この指針の精神に基づいて、今後必要とされる具体的な施策について私見ながら述べてみたいと思います。

一 国際理解教育の推進について

「国に帰れ」とか「ブラジル人はバカや」とか、露骨な表現で投げかけられる言葉に当事者の子どもたちは深く傷ついています。また「クラスに友だちができない」、「みんなから変な目で見られている」など、学校生活について子どもたちから聞く話の多くは対人関係に関することです。

すべての児童生徒に「互いの人格を認め合い、励まし合って生きていく態度を育成」することは急務です。しかしながら国際理解教育を安易に行うことはかえって差別や偏見を助長することともなりかねません。

【必要とされる具体的施策】

①《子どもの年齢に適した教材の作成やメソッド(ワークショップなど)を開発する》

②《国際理解教育に充てる年間での最低時間数を学年別に定め、すべての子どもたちに学習機会を保障する》

③《互いを尊重し合い思いやりのある心を育むため、既存のカリキュラムの中でも積極的にグループ討議やグループでの共同学習(家族や地域などの協力も得る)等を取り入れ、自分と他者との違い、協働することの大切さを日常的に体験できるようにする》

外国籍の子どもたちからは「何のために学校に行っているか分からない」という声をよく耳にします。特に高学年になればなるほど「内容が分からず授業が終わるまで我慢しているだけ」という状態になるようです。総合的な学習支援と、子どもの心の安定、学習に対するモチベーションや学習意欲を高めるための取り組みが不可欠です。

【必要とされる具体的施策】

④《個々の児童生徒に応じた学習評価(絶対評価と相対評価)を行う》

⑤《個々の児童生徒に応じた短・中・長期的な学習目標の設定を行う》

⑥《個々の児童生徒に応じた学習教材(日本語学習用教材、教科書の副読本、自主ドリル等)を整備し、必要に応じて多言語化する》

⑦《保護者、児童生徒、クラス担任、日本語指導員、教育相談員、教育委員会、NPO等がお互いに協働できるような連絡会をつくり相互理解を図る》

初等教育年齢で来日したり、日本語以外の言語環境の中で育ったりした後に日本の小中学校に転入(入学)した場合には、クラスメート、担任などとのコミュニケーションに支障をきたしやすいだけではなく、外国籍の子ども自身にとっても相当大きな精神的ストレスとなります。その結果、子どもが本来持っていた積極性や社交性すらも失われてしまいがちで、中にはしばらく学校へ通っただけで、不登校となってしまうことがあります。

また、日常会話程度の日本語が身についた後も、授業で使われる学習言語は難解なこと、文章の読解は容易でないこと(例えばドリル学習をするにも質問の意味が分からないということがあります)、言語的環境が違うために家庭における両親の協力を得ることが難しいことなどから、継続的なサポート体制の整備が不可欠です。

【必要とされる具体的施策】

⑧《日本語の基礎が十分でないとりわけ初期には、生活に必要とされる最低限の日常会話力、国語教育の前提となる日本語の基礎、またNPOや地域の人たちとの協働を得ながら、心のよりどころとなれる対人関係を築き、学習のモチベーションや学習意欲を高められるような短期集中型の日本語学習を行う》

⑨《放課後学習や休暇期間(夏休みなど)中の学習についても、NPOや地域の人たちの協力を得ながら継続的に支援を行う》

 年齢が低ければ低いほど教科学習の理解がスムーズにいくと考えている関係者が多いようです。しかしながら、母語が定着していない年齢(通常は十歳前後まで)で日本の学校に入った場合には、その急激な言語環境の変化によって、抽象的な概念形成などよりも新たに直面する言語の習得にエネルギーが注がれるため、その後の教科学習の理解が困難になることが生じているようです。子どもの発達を保障する教育の役割から考えれば、母語学習について必要な措置を講じるのは公教育の責務です。

【必要とされる具体的施策】

⑩《母語理解のある人材等を活用し、母語による日本語学習の授業や、母語による教科学習の授業を一定時間数設け、母語を後退させることなく学校の授業内容についても理解が深められる学習支援を行う》

上記の学習支援は、一部の外国籍の子どもたちだけが受けられる特別なものであってはいけません。

【必要とされる具体的施策】

⑪《複数児童が在籍する学校への支援(日本語学習指導における非常勤講師の派遣など)という枠を撤廃し、外国籍の子どもすべてに学ぶ権利を保障する》

また、上記の学習支援におけるノウハウが蓄積され、より良い学習支援が行われるためには、それに関わる人材の身分保障(生活保障)も不可欠です。例えば、日本語指導員に関しては、週四~六時間という極めて短い労働時間、また他の非常勤講師と比べても時間当たりの賃金に格差が出ています。

【必要とされる具体的施策】

⑫《日本語指導員を含め、外国籍の子どもの教育にかかる人材の正当な身分保障を行う》

二 進路指導の充実について

 

 「高校に行きたかったが勉強ができないためにあきらめた」という声があるように、中学卒業後も勉強を続けたいという意志を持っていながら高校入試が大きな壁となっていることを考慮すれば、中学を卒業する数年前からの早期の進路指導を行い、進学を希望する子どもに対して、受検勉強に備えた学習目標設定などを行い、そのプロセスを保護者や教育関係者と共有することが欠かせません。

【必要とされる具体的施策】

 ⑬《進路ガイダンス等、進路決定に関する情報提供の場を公的に保障する》

⑭《進路決定に不可欠な情報を多言語化する》

 また、幼少期から日本語の基礎を培っている日本人と比べ、初等教育年齢で来日する子どものハンディは大きく、「取り出し授業」による教科学習時間の減少や、放課後学習の支援不足などによって、その後の教科学習の理解度にも差が生じがちです。そのため、本人に進学の意志があるにもかかわらず「入試の壁」によってその願いが断絶されてしまう状況が起こっています。進学したいという意志を持つ外国籍の子どもの学習意欲を最大限尊重しなければなりません。

【必要とされる具体的施策】

⑮《一般選抜・推薦選抜・特色選抜における外国人枠を設ける》

⑯《外国籍の子どもに対する一部学科試験の免除や、通常の学科試験に替わるものとしての日本語能力試験や母語による試験など、創意工夫によって、本人の進学希望の芽を摘まないための具体的な措置を図る》

 ⑰《これらの適用を受けるための条件(日本での滞在年数など)については、日本人とのハンディを十分に埋められるものとする》

三 教職員研修の充実について

 日常生活の大半を過ごすこととなる学校現場や教育関係者が、外国籍の子どもや家族への理解を深め、より良い教育を行うために最善を尽くすことは言うまでもありません。また、国際理解教育は決して一部の教職員が行うだけのものであってはいけません。

【必要とされる具体的施策】

 ⑱《教職員に対する研修プログラムを公的に位置付け、すべての教職員にその学習機会が保障されるよう、年間の最低研修時間数などを具体的に定める》

 ⑲《個々の教職員が問題を一人で抱え込まないようにするための相談、サポート体制の整備を図る》

 

四 その他

 他府県では、子どもの日本語能力等に応じて本来の学年よりも下の学年への編入を認めるなど柔軟な対応がとられています。しかし、滋賀県内の教育委員会では必ずしも十分な理解がされているとは言えず、子どもの状況も勘案せず子どもの貴重な学習機会が奪われた事例も起こっています。

【必要とされる具体的施策】

 ⑳《保護者や本人の意思などを十分に尊重した上で、年齢に応じた原学年に籍を置きつつも下の学年で学べるようにしたり、高校年齢に達している場合でも中学校に籍を置くことができるような配慮をしたり、また希望すればいつでも原学級に復帰できること、またこのことを関係機関に周知徹底、ならびに外国籍の子どもとその家族へ明示する》

 

 外国人登録のない子どもや、外国人登録に記載された居住地とは異なる場所に居住している子どもの就学事務について、県内市町教育委員会での対応が異なるようです。外国籍の子どもの家庭には様々な事情があり、原則どおりに手続きを行うことで子どもやその家族が不利益を被ることがあることを考慮し、家族の社会的状況に関わらず学習機会の保障を最優先することが不可欠です。

【必要とされる具体的施策】

 21《外国人登録がない子ども等の学校への受け入れにあたっては、その社会的状況を十分考慮し、住所地の確認が必要であれば公共料金の支払い請求書等でも可とするなど、柔軟な対応を行うこととする》

 

 外国籍の子どもたちには就学の義務がないため、学習機会に恵まれていない不就学の子どもたちの数が相当数にのぼると思われます。すべての子どもたちに教育を受ける権利を保障しなければなりません。

【必要とされる具体的施策】

22《外国籍の子どもについてもいずれかの公立学校に籍を置く(その際、外国人学校などに通学している場合には、公立学校の出席扱いとする)、もしくは教育委員会の責任において、定期的に子どもや家族と連絡をとりあい状況の把握に努める》

23《不就学となっている場合には、その原因を調査し、必要な措置をただちに講じる》

外国籍の子どもたちの現状を知るための客観的な指標も必要です。

【必要とされる具体的施策】

24《教育委員会は、国籍別に()就学年齢(高校年齢を含む)別の外国人登録者数、(B)就学年齢別の公立小中学校ならびに高等学校での在籍者数、(C)小中学校における年間出席日数の傾向、(D)中学校の卒業者数、(E)中学校卒業後の進路ならびにその内訳人数、についての情報をプライバシーにも配慮しながら公表する》

ブラジル人学校のような外国人学校等は、現在私塾と同様のものと位置付けられていますが、毎日朝から夕方まで子どもたちがその場で学習していることを考えれば塾のような学校の補完的役割を担った場所とは明らかに異なります。しかしながら、外国人学校等に通わせる場合には公的な財政支援が一切ない(一部各種学校としての認定を受けている学校もある)所が多く、そのため学費が非常に高く、親が失業した時などに子どもの通学も断念せざるをえない、といったことも生じており、不就学の一要因となっています。

【必要とされる具体的施策】

25《一定の要件を満たしたすべての外国人学校を「学校」として認可し、財政支援を行う》

26《日本語講師を外国人学校へも派遣できるような制度を新たに設け、子どもたちが日本社会との調和を保ちながら成長できるよう学習支援を行う》

27《健康診断や検診、性教育についての学習機会の提供など、保健衛生に関して公立学校と同様のサポートを行う》

上記に述べた様々な課題の解決に向け、専門的な窓口の創設は不可欠です。

【必要とされる具体的施策】

28《必要な情報や図書を収集・整理し、外国籍の子どもたちの教育実態を把握し、必要な関係機関や当事者等との連絡調整や相談を日常的に行うことができる専門機関を設置する》

松井 高

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