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2008年1月 4日 (金)

04年8月号 私たちはどこへ向かうのか? 

私たちはどこへ向かうのか?

―排他主義か多文化共生か―

国民健康保険からの除外

今年六月八日、厚生労働省は在留資格を持たない外国籍者を国民健康保険から一律適用除外するよう官報で告示した。

非正規滞在者が国民健康保険に加入していることは実際にはまれであろう。なぜなら、国民健康保険に加入するためには市町村で外国人登録を行う必要があるからだ。登録をする際に発行される外国人登録証明書には、外国人登録番号とともに、氏名、生年月日、在留資格、パスポート期限、現住所、勤務先名や勤務先住所など様々な個人情報が記載される。しかもこのカード作成は地方の法務省入国管理局が行っており、その入管の警備部門が非正規滞在者の摘発を担当している。いわば、市町村に登録することは自分が非正規であることを宣言し、あらゆる個人情報をも公開することになってしまうのだ。

もともと、このような人権への配慮に欠けたシステムゆえ、この措置の影響を受ける人の数がそれほど多いとは思えないが、たとえ在留資格を持っていない人に対してとはいえ、一部の住民を保健医療から締め出すことは人権上非常に問題があると言える。

今回の決定に関して、「不法滞在者」(※私は「非正規滞在者」と表現している)に厳しくするのは当然、という声もあるだろう。しかしながら、日本人との交友や恋愛、国際結婚など外国籍住民はすでに日本社会と深いつながりを持っていることを理解すべきだ。

また今回の措置は日本の保健医療全体にも重大な影を落とすこととなる。例えば、日本国内HIV感染者約八千五百人のうち、エイズ患者の約二十九%(約二千五百人)は外国籍者である。医療保険を持っていない外国籍者などは、治療費が高額になることを心配し受診時期が遅れがちだ。すなわち、誰もが安心して医療にかかれる状況を整備しておかないと、結果的に感染症などの蔓延を後押しすることにもなる。

違うものを排除する思想

さらに今回の厚生労働省の対応は、その根底に排他主義が根深い問題としてある。例えば、日本は「難民鎖国」とも言われており、欧米各国が年間数万人もの難民を受け入れているのに対し、昨年の日本での難民認定者総数はわずか十人(http://www.moj.go.jp/PRESS/ 040227-1/040227-1-1.html)というありさまだ。国際貢献について自衛隊派遣の是非は問われても難民受け入れも含めた人道支援が話題になりにくい国民性があり、それに便乗する形で、政府は新たな差別を自らの手で作り出してきている。

昨年秋頃から「不法滞在外国人」を半減する計画がすすめられ、昨年十二月にはその具体化とも言える「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」が閣僚会議で決定された。私たち日本ブラジルゆーあいネットからは政府に対して、この計画に対する人権上の問題を意見書として提出した(http://homepage1. nifty.com/brasil/ newpage3.htm)

計画の問題箇所は数多いが、例えば「不法滞在者」半減に向けた具体的対策として「旅館やホテルでの身分証明書確認の徹底」というのがある。しかし、もしあなたが旅館やホテルのフロントマンとしたら、何を基準にお客さんから身分証明書の提示を求められるだろうか? 「あなたは日本人なので結構ですけれども、そちらの方は身分証の提示をお願いします」などという対応を何の疑問も持たずに行えるだろうか? けれども、「日本人」だと思った人が実は外国籍者で、「外国人」だと思った人が実は「日本人」だったということは十分起こりうる。

有道出人(あるどう・でびと)さんはその著書『ジャパニーズ・オンリー』の中で、小樽市で「ジャパニーズ・オンリー」のプラカードを掲げる「温泉湯の花」での差別体験を述べられている。有道さんは日本に帰化したアメリカ系日本人、妻は日本人で子どもは二人。すなわち家族全員が「ジャパニーズ」なのだが、上記の温泉に入ろうとしたところ、入場を認められたのは妻と外見上アジア系の長女の二人だけで、有道さんと外見上欧米系の次女は入場が認められなかったという。

ここから言えることは、いかに私たちが「外国人」「日本人」という言葉に先入観をもっているかということだ。しかし実際には、国際結婚も多く、あるいは帰化する人も増え、見かけだけでは「日本人」かどうか判断できないほど国際化はすすんできている。

私自身も国際結婚をし、妻はフランス系・日系ブラジル人(父方の両親が日本人で、母方の祖父がフランス人)、子どもが二人いる。上の子は容姿が日本人と(イメージされるところから)異なり、下の子は反対に全く日本人(とイメージされるそのもの)。そのため、私たち両親にとっては同じ子どもでありながら、周りの人たちからは違った目で見られる。例えば、私が下の子と二人で歩いている時には周りの人は気にもとめないが、上の子と二人で歩いていると違った視線を向けられることがある。もちろん親には何の責任もなくどうしようもないことなのだが、周りの人たちから二人が違った印象で見られることに少なからずとまどいを感じるのも事実だ。

私と同じように国際結婚をした人も、公園で子どもと遊んでいると「外国人(外人)の子や」と周りの子や親から言われると言っていた。日本人のイメージと少しでも違えば「外国人」と見てしまう日本人の固定観念が早くなくなってほしいと私たちは願うばかりだ。

外国人犯罪は増えていない

「外国人」の取り締まり強化の理由として、「外国人」犯罪の増加がよく挙げられる。「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」にも「近年、外国人犯罪の深刻化が進み、その態様も、侵入強盗等の凶悪なものが増加しているほか、暴力団と連携して犯罪を敢行している例も多くみられるようになっている。我が国の不法滞在者は二十五万人程度と推計されているが、これら犯罪の温床となる不法滞在者を、今後五年間で半減させ、国民が安心して暮らすことができるようにし、また、平穏かつ適法に滞在している多くの外国人に対する無用の警戒感を払拭することが必要である」と書かれている。

しかしながら統計を見る限り、外国籍者による犯罪は増加していない。そもそも外国人登録者総数が急増しているので犯罪数も比例して急増してもおかしくはない。「うきうき書房On-Line(http://homepage2.nifty.com/ ukiuki/data.html)などでもデータが載せられているが、それによると「不法滞在者」による犯罪(刑法犯検挙人員)は一九九九年千五百二十九人、二〇〇〇年千六百三人、二〇〇一年千三百七十九人、二〇〇二年千四百三人と、ここ数年全体としては横ばい、もしくは減少傾向にある。「不法滞在者」凶悪犯検挙人員も一九九九年百八十六人、二〇〇〇年百五十九人、二〇〇一年百八十人、二〇〇二年百四十一人と、こちらも減少傾向にある。一方、日本全体の刑法犯検挙人員は一九九九年三十一万五千三百五十五人、二〇〇〇年三十万九千六百四十九人、二〇〇一年三十二万五千二百九十二人、二〇〇二年三十四万七千五百五十八人と顕著に増加傾向が見られる。日本全体の凶悪犯検挙人員も一九九九年七千二百十七人、二〇〇〇年七千四百八十八人、二〇〇一年七千四百九十人、二〇〇二年七千七百二十六人とこちらも顕著な増加傾向だ。

つまり「不法滞在者」が日本の治安を悪化させているのではなく、日本人そのものが日本社会の治安を悪化させている。日本社会全体の問題であるにも関わらず、なぜその罪を外国籍者にかぶせようとするのか理解に苦しむところだ。

外国籍者だけを匿名で密告?

さらに今年の二月十六日からは、今度は入国管理局が「不法滞在等の外国人情報」を匿名メールで受け付けることを始めた。これは怪しいと思われる人の国籍や住所、職場名、電話番号などを匿名のメールで通報できるというものであるが、住基登録の際に大議論となったように日本人はもともとプライバシーの保護に関して敏感なはずではなかったか。もし第三者があなたの個人情報を勝手に流していたら、あなたはどのように感じるだろうか。まして役所が堂々と個人情報を収集するという感覚はどうも理解できない。

外国から来た人たちは同時に外国の様々な文化も持ってくる。日本人からすれば奇異に思えることも数多いに違いない。つまり「不審者の情報を匿名で寄せてください」などというと、日本とは異なる文化・習慣を持つ人が誤解されたり、匿名の気楽さから単なる嫌がらせのようなものまでが無責任に送られたりする危険性がある。何よりも、日本人が外国籍者を疑いの目で見ることを助長することは大きな問題だ。これは、私たちの主張する多文化共生とは相反するものだ。

外国籍住民は無保険でもいい?

私たちが約三年前に行った南米人対象のアンケート調査(http://homepage1.nifty.com/ brasil/newpage63.htm)によると、四人に一人が医療保険に加入していなかった。雇用保険に加入している人もわずか五%であった。また、在日日系二世の高齢化もすすんできており、無年金者の問題も現れ始めている。外国籍者は皆保険制度の蚊帳の外に置かれてきたとも言えよう。

南米人の長期滞在化は顕著であり、それゆえに時とともに日本社会と限りなく混ざっていくことは間違いない。だとすれば、彼らの現在は日本の未来をも具現化しているとも言える。この状態を放置しておくことは近い将来日本社会全体にもはねかえることだろう。

お互いに助け合ってお互いの生活水準を高めてきた日本の良さがこのところ崩れているように思われる。海外の多くの国が直面している問題、富める者と貧しい者との二極化という道へこの国は向かおうとしているのだろうか?

日本の人口減少と外国籍者の受け入れ

日本の人口減少はほぼ確実だ。現在一億二千七百万人以上の人口は低位推計で来年をピークに下がり始め、二千二十年には現在より約六百万人減、二千三十年には約千四百万人減、二千五十年には約三千五百万人減、総人口は約九千二百万人となる。高位推計でも二千五十年には現在よりも約二千万人減少する予測だ。

すなわち現在の人口を維持しようとすれば、毎年海外から五十~七十万人もの外国籍者を受け入れる必要がある。けれども、現在のように外国籍住民に対して権利の保障をないがしろにし続けるならば日本の未来は暗い。外国人労働者は欲しい、税金を払って日本人の生活水準維持のために尽くしてほしい、では余りにも身勝手だ。

一方、外国籍住民の福祉や保健医療、教育などの課題にしっかりとした対応をすれば日本は世界からの恩恵も得られることになるだろう。在日外国籍者は世界とつながっており、彼らの人脈や情報などは、その機会さえ与えられれば大いに力を発揮することだろう。

コフィ・アナン国連事務総長が、「移民は社会を豊かに、強くするであろう。しかし、そうでなければ、生活水準の低下や社会の分裂につながるかもしれない(二〇〇四年一月三十一日・毎日新聞に寄稿)」と述べているのは非常に示唆に富んでいる。

排他主義への道を歩むのか、多文化共生への道を歩むのか、私たちは岐路に立っている。果たして私たちは……

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